健はそう言うと、暗闇の中であたしに顔を近づける。



でも…



「ちょっと待った、」

「!」



あたしはさっき健を殴ったのと同じクッションで、それを健の顔にぽすん、と当てた。



「…何、世奈チャン」



健はあたしのそんな行動に不満げな声を出すけど、よくよく考えたら今はまだ夜中。

隣の部屋に兄貴が寝ているとはいえ、今あたしはコイツとベッドの上で二人きりだ。



あたしの今までの元彼達との経験上、今ここでキスをしたとしたら、きっとそれだけで終わらない。

だから、あたしは健からクッションを離して言った。



「…おやすみのチューは、お預け」

「え~、何で」

「だって昔はまだ幼かったし、あたしもわからなかったから。
でも今はわかるし、だからお預け」



そう言って、健が傷つかないようにニッコリ笑う。

だけど健は不満げな顔をしたまま、あたしに言った。



「じゃあ…アイツだったら、する?」

「え、」



アイツ?



「誰、アイツって」



あたしが頭上に?を浮かべてそう聞くと、健はあたしの目を真っ直ぐに見て言った。



「早月翔太。



アイツだったら、チューすんの?」



「!」



健があたしにそう問いかけて、自身の下唇を噛んでいるのがうっすら見えた。