健はそこまで言うと、「どうする?」ってあたしに問いかける。

…いきなりここに連れて来られて、何かと思えばいきなりの駆け引き。

もちろんあたしは、そんなすぐに頷けるわけがなくて…



「…じゃあ、もしあたしが健に勝てなかったら…?」



不安交じりでそう聞いたら、健が言った。



「世奈、俺と付き合って」

「!」

「もちろんちゃんと、アイツと別れてね」

「…っ、」



そう言って、あたしを見据えてニッコリ笑う。


冗談じゃない!



「っ、そんな駆け引き絶対イヤ!あたし帰るからね!」



しかしあたしがそう言ってハーパンを脱ごうとすると、健がそれを引き留めるように言った。



「本当にそれでいいわけ?」

「…え、」


「だってお前、早月にフラれたようなもんだろ。

ただ距離を置いてほしいって言われただけかもしれないけど、今のところ元に戻る可能性は極めて低い。

それはお前自身が一番よくわかってるんじゃないの?」


「…っ…」


「俺だってお前の元カレ達に散々言われてきたんだよ。“あんな兄貴がいるのにお前すげーな”とか、“世奈ちゃんにはお前が一番合ってるよ”って。

でも世奈はそれじゃ嫌なんだろ?誤解くらい完全に解きたいじゃんか。

俺は世奈のことが好きなんだから、俺が早月を説得してちゃんと話したら、アイツだってわかってくれるよ、きっと」



健はそう言うと、「良い考えだと思うけどな」とあたしの返事を待つ。


……確かにそう言われてみれば、健の言う通りかもしれない。

あたしは健とお似合いだって言われる度、納得がいかなかった。

その誤解は、もちろん翔太に一番違うってわかってほしい。


あたしはそう思うと、やがて意を決して健に言った。



「……わかった。やる」

「…」



「あたし、絶対に負けないからね」