だけど兄貴は、入ってきたのがあたし達だと知ると、少し表情をしかめて…



「…世奈、」



あたしの名前を呟くように言った。

物凄く怖いけど、ここは他のお客さんもいるカフェ。

さすがの兄貴だってここで怒鳴ったりはしないはずだ。

あたしはそう思って兄貴に近づくと、思いきって言った。



「ごめんなさい!」

「…」

「…ワガママ言って、勝手に出て行ってごめんなさい。あの、兄貴に紹介したい人がいるんだけど…」



あたしがそう言って頭を下げて、なかなか上げられないままいると、兄貴はあたし達から視線を逸らして、



「…座れ」



と、カウンターに座るよう促した。

その言葉に、恐る恐るあたしと翔太が隣に並んで、健があたし達とは少しだけ離れた椅子に座る。


…兄貴、怒ってるよね。

ってか、翔太は大丈夫かな。


そう思ってあたしが翔太に目を遣ろうとした瞬間、兄貴が翔太に言った。




「…えっと、早月翔太くんやっけ?」

「あっ、はい!」

「世奈から君のことはよう聞いてるわ。ごめんな、世奈が迷惑かけてもうて」

「!」



兄貴は意外にも申し訳なさそうに翔太にそう言うと、「まぁ、好きなもん選んで」とメニューを差し出す。

そんな兄貴の様子にあたしがびっくりしていると、メニューを受けとる前に翔太が言った。



「いえ、迷惑なんかじゃありません!世奈ちゃ…世奈さんを勝手に家に引き留めていたのは僕です!」

「!」

「僕の方こそ、お兄さんに迷惑かけてすみませんでした!」



翔太は兄貴にそう言うと、兄貴に向かって頭を下げる。

そんな翔太にあたしが内心凄く感動していると、その間に何故か兄貴は翔太から目を逸らして…



「…?」



なんとなく、複雑な表情で健に目を遣ったのが見えた。