あたしが独りそう思っていると、やがてまた兄貴が口を開いて言う。



「おら世奈、どうすんねん」



だけどやっぱり翔太を信じることが出来ないあたしは、そんな兄貴の言葉に首を横に振った。



「…ごめん。会わせたくない」



でも、好きなの。

別れたくないの。



そんなあたしの返事を聞くと、兄貴が「はぁ…」と小さくため息を吐いたのが聞こえた。




******




健 side



世奈のお父さんと一緒にマンションを後にすると、おじさんは話を尽きることなくいろんなことを話してきた。

仕事の事。

勇斗くんのこと。

そして、世奈のこと。


しばらくは世奈の小さい頃の話を聞かされて笑わせてもらっていたけど、

おじさんは俺の家が近づいてくると何故か真剣に世奈のことを話し出した。



「世奈はな、健も知ってるだろうが、アイツが一歳の頃に母親を亡くしてな」

「…」

「まぁ本当に小さすぎたから母親の存在はよく知らなかっただろうけど、本当に幼いころから寂しい思いをさせてしまった。

勇斗と兄妹になってもなんか上手くいかなくて、でも父親の俺は仕事で精一杯だったし、だから新しい母親ともうまくいってなかった」

「…そう、なんですか」



あんまりよく覚えてないな…そうだっけ。


俺が必死で昔のことを思い出していると、おじさんが話を続けて言う。



「でも、そんな時世奈には幼なじみのお前がいた。うまくいっていない新しい家族があるなかで、あの時唯一心を許してたのが健、お前だったらしい。

なんせアイツは昔から健にベッタリだったからな~」



おじさんはそう言うと、懐かしそうに笑った。



「アイツが幼稚園から帰る度、いつも俺に言い聞かせてたんだ。

今日は健と何をした、何をして遊んだ、健に助けてもらった、健がこう言って笑わせてくれた、ってな」

「!」