『…ならない。
私の心には、その人だけだもん…』
なる。
いや、ならせるよ?
だって、俺は絵美ちゃんのそんな幸せ、許せないから。
自分勝手。
傲慢。
強引。
卑怯。
俺を罵ればいい。
『それはどうかな』
俺は絵美ちゃんとに近づく。
ふわっと香る甘いシャンプーの香りが漂う、そんな近距離まで。
『……航汰くん…』
俺は絵美ちゃんのサラサラな髪を指に絡めて、首を傾ける。
『………ダメ…!』
俺の肩を引き離し、そして絵美ちゃんは綺麗な涙を流した。
『…なんで、こんなことするの…?』
涙が頬を伝って、そしてその涙が床に落ちる。
それを俺は静かに見守りならが、絵美ちゃんの言葉を聞く。
『こんなこと?』
『冗談はやめて…私と航汰くんは教え子と先生、だからこういうことするのはおかしい…!』
…おかしいですか。
じゃ、もっとおかしくなってよ?
『今時の中学生が簡単にキスすると思ってるの?』
絵美ちゃんは俺の問いかけに、目を見開き、別の涙を流す。
『…え…?』
『俺、そんな軽薄な人間じゃないけど?』
『…………』
軽薄なんかじゃない。
ただ、絵美ちゃんのことが好きなだけ。
『絵美ちゃん』
俺は絵美ちゃんの震えている手を掴み、強引に引き寄せた。
『…やっ…』
『隙、ありすぎ』
俺は意地悪く微笑んだあと、絵美ちゃんの唇に、自分の唇を落とした。