絵美ちゃんは笑うときは可愛い、でも授業のときはいつも真剣で、こっちにもその真剣さが移る。


だから、授業のときはいつも勉強以外での会話がない。


俺はいつも、それが悲しくて、つまらなかったりする。



こんな公式や文法を一つ覚えるなら、俺は絵美ちゃんのことを知りたい。


こんな風に過ごす時間よりも、俺は絵美ちゃんを沢山笑わせてあげたい。


そしたら、きっと。

俺も絵美ちゃんの笑顔を見て、嬉しくなって、もっと笑わせてあげたい、そう思えるんだけど。





『航汰くん?』


考え事をしていた俺の目の前に、絵美ちゃんは突然現れた。


それももう少しでお互いのおでこがくっつくんじゃないの、っていうくらいの距離に。




『…え…!』



俺は思わず、頭を後ろにひいた。



『もーさっきから呼んでるのに』


絵美ちゃんはそう言って、頬を膨らませる。





『…すんません…』



『…体調でも悪いの?』


絵美ちゃんは俺の顔を覗き込みながら、そう問いかける。





いや。


体調が悪いのではなく、あなたのことを考えていたら、突然のあの近距離であなたのお顔が見えまして…


ビックリしたというか。

いや、うん、ビックリしたんだな…。




『あ、体調いいよ』


俺が答えると、“怪しい”と言わんばかりに、絵美ちゃんは顔を近づけてくる。





だーかーら!!

その近距離攻撃はやめてって…




絵美ちゃんは気付いてないと思うけど!


絵美ちゃんの唇って、ちょっと厚めで、でも柔らかそうで。

目の前にあるとキスしたくなる…




『本当に?』


そう覗き込む絵美ちゃんの顔は、唇は、俺がちょっと首を横に向けたら、今すぐキス出来そうな距離で…





『…本当だから!!』



俺は必死で顔を背けた。



だって、絵美ちゃん…近すぎ…



男の前でそういうこと、しないでください。




って…絵美ちゃんからしたら、俺、男というより男の子って感じなんだよね…




だから、絵美ちゃんも異性とは言えども出来る訳で…






俺、男だっつーの!!





『てか、絵美ちゃんさ…』



『何?』



『男にそういうことしないほうがいいと思うよ』



『そういうこと?』


絵美ちゃんは本気で分かりませんって顔をする。




なんで、俺より長く生きてんのに、俺の言葉の意味が分からないんだよ!!


俺は心の中で突っ込むも、目の前の絵美ちゃんはポカーンとしてる。




だーかーら!!


そういう顔も、男に狙われるんだよ!!