『まぁ、絵美は元々、俺のことを好きだったからね。
今日、ちゃんと絵美の気持ちを聞けて良かったよ?』
そんなことまで言う?
分かってたけど。
絵美ちゃんに言われるのも辛かったけど。
絵美ちゃんが選んだ人から言われるのも辛い…
俺は、その場で俯いた。
『…なんてな』
その人はそう言って、溜息をつく。
俺はその人の言葉に顔をあげる。
そこに映るのは、困ったように笑う、あの人の姿…
『絵美が俺を好きだったのは本当だけど、
絵美は俺を選ばなかったよ』
『……は…?…』
どういうこと?
これ…どういう話の展開…?
『え…でも、さっきキス…してましたよね…?』
『あーぁ…アレ見てたんだ?
あれはお別れのキス、だよ?』
『…お別れ…?』
『俺をフッたんだから、最後の思い出にって』
『…はぁ……』
え、
絵美ちゃん、そういうキスはいいの…?
俺とは泣いたくせに、この人となら、いいんだ?
好きな人だから?
いや、もとい好きな人だったから?
ん?
え、いいわけ!?
『まぁまぁ…。
絵美のことやるんだから、たった一回のキスくらい、いいだろ?』
その人はそう笑って言ったけど。
おいおい、ダメだろ!
心の中で、そうツッコミを入れ、でも表向きには笑って誤魔化した。
てか、
絵美のことやる…?
その言葉に、一度は萎えてしまった期待も復活する。
『とりあえず、これ』
そう言って渡されたのは、絵美ちゃんの誕生日にこの人が一緒に行くと予定していた水族館のチケットだった。
『…?』
『俺なんかと行くよりも、一番大切な奴と行ったほうが楽しいだろ?』
その人はそう言って、そのチケットを半ば強引に俺に押し付けた。
『言っとくけどな?
絵美のこと、泣かせたら、絵美のことお前から奪うからな?』
すっげー本気の目でそう言われ、俺は首を縦に振って、返事をした。
まだ、絵美ちゃんの気持ちを本人から聞いたわけじゃないけど。
『それと、今日は禁止な?
アイツ、一応熱まだあるし、今日はユックリ休ませてやってな?』
『……はい…』
俺の言葉を聞いて、その人はニコッと笑って、そして俺の横を通り過ぎ、歩いて行った。
俺も、一度絵美ちゃんの部屋を見て、そして歩き出す。
チケットの日付を見ながら、この日にもう一度、絵美ちゃんに告白をする、俺はそう思った。