俺は急いで来た道を戻っていく。
若干あやふやなところもあったけど、それでも俺は走る。
どうしても、絵美ちゃんに会いたくて。
どうしても、絵美ちゃんに聞きたいことがあって。
『……はぁはぁ……』
マラソン大会よりも長い距離を走って、
体育祭のリレーよりも本気で走った。
たどり着いた、絵美ちゃんのアパート。
確か絵美ちゃんは二階の端…
『………え………』
俺はその光景に言葉を失った。
そこには、絵美ちゃんがあの人とキスをしていたから…。
俺は言葉が出ない代わりに、後退りをした。
長い長いキスの後、あの人は絵美ちゃんを抱きしめた。
そんな光景が目に飛び込んでくる、見たくないのに、見たくないのに目が二人の様子を追ってしまう。
確認もしないで後退りをしていたため、俺は小石に足を取られ、その場でお尻から倒れていく。
鈍い痛みが走るのに、それでも俺の目は二人から離れなくて。
あの人は絵美ちゃんから離れ、そして絵美ちゃんを部屋に入れさせ、見届けた後で階段を下りてきた。
『あ』
階段を下りて、俺の元まで歩いてきて、俺の存在に気付いたあの人はそう言葉を発した。
『あれ、君、確か…この間、絵美と二人でいた…』
相当な記憶力ですね…
たった一回、そんなに特徴のある人でもないのに、俺を覚えてるなんて。
『…絵美に会いに来たの?』
その人は、怪訝そうに問いかけてくる。
『…あ、いえ……』
その人は俺の言葉に、一度絵美ちゃんの部屋を見て、そして俺に手を差し出す。
『…大丈夫です』
俺はその人の気遣いを受けず、一人で立ち上がる。
『君、絵美とはどういう関係なの?
この間、絵美といるのを見た時から思ってたんだけど』
『…家庭教師と教え子、ってだけですけど』
『ふ~ん…教え子ね…。
教え子がこんな時間に一人で来るかな?』
その人はクスッと笑った。
『…勉強を教えてもらいにきただけです』
『言っとくけど、俺、今、絵美からOKもらったとこなんだ』
その人は勝ち誇った顔で、勝ち誇った声で、俺にそう言った。
……え………
その人の言葉に、返事ができない。
言葉が喉で詰まって、その人に何も言えない。
『君たちでも分かるように言うと、“彼氏彼女”になったんだ』
『……そうですか。
おめでとうございます…』
かろうじて、ようやく出た言葉。
全くお祝いできる精神状態ではなかったけれど。
そう言わなけれな、涙が溢れそうで。
そう強がってないと、自分が壊れてしまいそうで。
俺は、そう、言ったんだ…