『……え……いいよ、重いし……』



『平気、もう絵美ちゃんの重さ、知ってるから』



俺は笑って、そう言うと、“うるさい”、そう言って、俺の背中に乗った。


一気に絵美ちゃんの体重がかかって、俺は“よっこいしょ”、そう掛け声をしながら立ち上がる。





『……ごめんね……』


俺の背中でおぶられているから、絵美ちゃんの声が耳元で聞こえる。



『何が?』


『…さっきも部屋まで連れて行ってくれたんだよね…。
 タオルもお水も嬉しかった……ありがとう…』


どんな顔で絵美ちゃんがそう言ってるのかは分からないけど。


でも、絵美ちゃんはそう言って、俺の背中にしがみついてくる。




『……本当だよ。
 俺の寿命、短くしないでくれる?』



『……え……?』



『外にいたのも驚いたけど、突然倒れるんだもん。
 ただでさえ受験生はストレスで命削ってんだから、先生が生徒の寿命を短くさせんなよ』




『……ごめんね……』



『今日は帰ったら早く寝ろよ?』


『……うん……』




俺は絵美ちゃんから道を教えてもらいながら、絵美ちゃんの家まで歩いていく。


後ろには絵美ちゃん、一人で歩いてる訳じゃないからユックリとしか歩けなくて。


絵美ちゃんの家までの道が、二人でいる時間がとても長く感じて。


何か話さなきゃいけない、でも内容はどうするか…そんなことを考えながら俺は歩いていた。







『…ねぇ、航汰くん?』


沈黙を破って、絵美ちゃんが問いかけてくる。



『何?』



『…うん。
 あのね…私、先輩から告白されたの……』



この沈黙を破って、絵美ちゃんが言いだした重大な言葉。


俺は生唾を呑み、分かりきってる答えを、それでも諦めきれない想いと一緒に絵美ちゃんに問いかけた。



『…そっか、それで?』





『……航汰くんは、どう思う?』




………なんで、俺に聞く?


“良かったな”、とでも言ってほしいのか?






『…どうって…?』


俺が真意を聞きたくて問いかけると、絵美ちゃんはそれまで俺の背中に寄せていた顔を離した。





『……付き合ってもいいと思う?』




…………



絵美ちゃんの中で、もう答えなんか出てるくせに。




俺なんかにそんなこと、聞くなよ?






『…それが絵美ちゃんの幸せなんじゃないの?』



絵美ちゃんがずっと想ってきた人なんだから。





『……そっか……』




その言葉を最後に、絵美ちゃんの家に着くまで、絵美ちゃんは一言も話さなかった。







絵美ちゃんは俺なんかに何を求めてたんだろう…。