階段を下りたところで、母親の帰宅と出くわした。
『あら、航汰、友達でも来てるの?』
俺の顔を言うなり、母親はそう尋ねてくる、が、だがしかし、今、部屋にいるのは絵美ちゃんで。
『もしかして、あんた彼女なんて連れ込んでたりしないわよね?』
母親の言葉にドキッとする。
彼女ではないけど、絵美ちゃん…
『白状しなさいよ?』
鋭い目つきで見つめられ、俺は戸惑う、も、本当のことを話して…
『…お邪魔しています』
俺の背後で、絵美ちゃんが挨拶をした。
『…え、絵美ちゃん!?』
母親は突然の絵美ちゃんの登場に驚き、口をパクパクさせている。
『…あら、でも確か先月で…』
明らか戸惑っている母親、俺から説明しないと、そう思って口を開く。
『あ、』
『すみません、お家に忘れ物をしてしまって、取りに伺ったんです』
絵美ちゃんは、普通に、普通の声で、そう言った。
『…あ…そうだったの、忘れ物はあったかしら?』
『はい、ありました、夜分遅くに申し訳ありませんでした』
俺が振り返ると、絵美ちゃんは母親に頭を下げていた。
『じゃ、私はこれで失礼致します』
絵美ちゃんは俺のところまで来ると、一度だけ俺の方を見て、そしてすぐに残りの段を降りていった。
『こんな時間に大丈夫?
あ、ほら航汰、送ってさしあげないさい』
『大丈夫です』
母親の勧めも聞かず、絵美ちゃんは微笑み、そして迷わず玄関に歩いていく。
『俺、ちょっと行ってくるわ』
俺は持っていた桶を母親に手渡し、絵美ちゃんの後を追う。
『あ…大丈夫なので』
絵美ちゃんは困ったように笑って、そう俺に言う。
『バーカ』
俺は絵美ちゃんの言葉なんて無視して、靴を履き、絵美ちゃんより先に外に出た。
『…おじゃましました』
絵美ちゃんはもう一度頭を下げると、玄関を出て、外に出てきた。
『…本当に平気だから。
受験生でしょ?風邪とか引いたら』
『もう移ってると思うけど?
さっきまで俺の部屋に熱出してる人いたし』
『……あ……』
絵美ちゃんはその場で止まり、俯く。
『…ごめんね……。
風邪を移したくてきたんじゃなくて……』
それでも、まだ、絵美ちゃんは俯いたままで。
俺はその場に膝まづいた。
きっと俯いてる絵美ちゃんにだって、俺の姿は見えるはず。
『…え…?』
『まだ熱下がってないだろ?』
俺は左手を背中のとこで動かし、背中に乗るよう促した。