ピンポーン…
インターホンが鳴り響き、母親がバタバタと玄関に向かう足音が響く。
俺はその足音を聞きながら、自分の部屋の最終チェック。
机、よし。
ベッド、よし。
エロ本は…とりあえずクローゼットの中…っと。
よし、これなら絵美ちゃんを迎えても大丈夫。
俺は急いで部屋のドアを開け、階段を駆け下りる。
『さぁ、絵美先生、どうぞー』
俺はリビングから玄関の方に顔を出す。
それに気付いた絵美ちゃんは、俺にニコっと微笑みかけてくれた。
俺の胸はそれだけで破裂しそうなくらい、鼓動がめっちゃ速くなる。
でも、何事もないかのように、俺はスっとリビングに入っていく。
そして母親と一緒にリビングに入ってきた絵美ちゃんは俺に、
『こんにちわ、航汰くん』
そう言った。
俺は急に照れくさくなって、顔を背けた。
『こら、航汰、ご挨拶なさい』
母親に言われ、俺は軽く会釈をした。
『ごめんなさいね、こんな子で。
じゃ、今日も宜しくお願いしますね』
『あ、いえ。
中学生の男の子ですから。
こちらこそ、宜しくお願いします』
絵美ちゃんは頭を下げて、そして、俺に“行こっか”と言った。
俺は絵美ちゃんより先に階段を上がっていく。
その後ろを絵美ちゃんが、上がってくる。
『お邪魔します』
絵美ちゃんはいつも律儀な人で、家庭教師を始めて1ヶ月が経つのに、必ず部屋に入る前にはそう言う。
『…どうぞ』
俺がそう答えると、絵美ちゃんは部屋の中をキョロキョロと見渡す。
『…何?』
俺のぶっきらぼうな言い方にも絵美ちゃんは微笑んでくれる。
『中学生の男の子の部屋って、もっと散らかってたりするのかなって思ってたから、いつも綺麗に整理されていて、居心地がいいなって…』
そう言った時の絵美ちゃんの横顔が、俺には綺麗に見えた。
『…別に。こういうのが普通なんじゃない?』
俺の言葉に絵美ちゃんはまたクスって笑った。
多分、大学生から見たら、中学生って可愛らしい存在なんだと思う。
だから、男といっても、中学生の男なんて、絵美ちゃんからしてみれば男というより男の子、なんだと思う。
絵美ちゃんの笑った顔を見ると、嬉しい気持ちと、でも何故かいつもそんなことを思っては悲しくなる。
俺も早く大人になりたい。
大人の男になりたい。