『……まだ、言ってない…から』



絵美ちゃんはそう言って、俯いた。




……へ……?


予想もしていなかった、絵美ちゃんの返事に俺は呆気にとられたような表情に変わる。




どういうこと?


わざわざ報告しにきて、俺に“無理”、そう止めを刺しにきたわけでは…ないってこと?








『私…確かめたいことがあるの』



そして、また予想もしていなかった言葉が絵美ちゃんの口から飛び出す。




『…何を?』



『私…分からないの…。
 ずっと、ずっと、先輩のことが大好きだったの。
 ずっと片思いしてきて、これからもずっと想い続けてく…そう、思ってたんだけど……』



そこまで、言ったところで、絵美ちゃんの足がふらついて、俺は咄嗟に、絵美ちゃんの体を支えた。





『ちょ………え…?』


熱い。


支えてる部分から熱を帯びてるのが分かるほどに、絵美ちゃんは熱かった。



『熱あんじゃねぇの…!?』


伸ばした右手で、絵美ちゃんのおでこに触れると、やっぱり熱くて。





『…私……航汰くんに教えてほしくて……』



その中、絵美ちゃんは、それでも言葉を紡いでくる。





『何言ってんだよ!とりあえず中に入るぞ!』


俺は絵美ちゃんを抱きかかえて、そのまま玄関に入り、母親を呼ぶ。




でも返事はなくて、母親から今日の夜は帰りが遅い、そう言われていたことを思い出す。




『……いねぇじゃん…病院連れていきたかったけど…』


俺はそのまま、意識が薄れていく絵美ちゃんを俺の部屋まで運び、ベッドに寝かせる。



抱きかかえた瞬間は“軽い”、そう思ったけど、階段はマジきつかった…


いやいや、こうしちゃらんねーって!



俺は急いで階段を駆け下りて、浴室から桶を持ち、冷水を注ぐ。


冷水でいっぱいになった桶の中にタオルを入れ、俺はそれを持って階段を一気に上がり、呼吸も荒い、絵美ちゃんのおでこに置いた。




『…航汰くん……』



熱があるからなのか、絵美ちゃんは甘えた声で俺の名を呼ぶ。





『辛い?
 今、水持ってくるから、ちょっと待ってて』


俺がそう言って体の向きを変えると、絵美ちゃんは俺の左腕を掴んだ。


もう熱があってフラフラな体のくせに、腕を掴む力は強くて。


俺は、その掴む力に振り向いた。




『…行かないで…?
 …私…航汰くんに聞きたいこと…』

『そんなの熱が下がって、体が楽になってからでいいだろう!?』


俺がそう怒鳴ると、絵美ちゃんは右目から涙を流す。




『…ちゃんと、聞いてくれる…?』


絵美ちゃんはすがりつくかのような目で俺を見つめて問いかけてくる。



病人は黙れよ、ったく、バーカ。




『分かったから、とりあえず今は水分補給をしとけよ』


絵美ちゃんは俺の言葉に頷き、俺はそれを確認してから絵美ちゃんの手から離れ、階段を下りていく。





そして、俺は持ってきた水を絵美ちゃんに少しずつ飲ませた。



『……冷たくて美味しい……』


絵美ちゃんは苦しそうに笑って、そう言った。


俺はもうすでに絵美ちゃんの熱で温められたタオルを、桶に注がれている冷水に浸し、キツくしぼったものを絵美ちゃんのおでこに置いた。




『……ごめんね………ありがとう………』


『話なんかしてないで、とりあえず体を休めろ、な?』



俺は絵美ちゃんから離れる。


でも、離れようとした瞬間に絵美ちゃんは俺の手を引いた。




『………眠れるまで、手、繋いでてもらってもいい……?』




そういう可愛い顔で、そういう可愛いこと、言うなよ…


こっちが返事に困る、っていうか。


気持ちの整理がうまく出来なくなるじゃんか…



でも、絵美ちゃんは俺の手と絡めると、微笑んで、そしてすぐに目を閉じた。