『……航汰くん……?』
もし、絵美ちゃんが俺を好きになってくれたら。
もし、絵美ちゃんと両想いになって、その時を迎える時は。
優しく、絵美ちゃんの気持ちを一番に考えて……
そんな空想さえ思い浮かべてしまうほど、俺は絵美ちゃんが好きで。
でも、そんな空想は現実にならなくて。
『……絵美……』
俺は静かに顔を絵美ちゃんの顔に近づけていく。
名前の呼び捨てに、絵美ちゃんは目を見開いたけど、何も言わなくて…。
もう、このままキスをしようと思った。
『……航汰くん……』
その可愛い声に、その柔らかい唇に、そのまま近づいていく。
“そういうことは好きな人としたい”
いつしか、絵美ちゃんがそう言った言葉が脳裏を過ぎる。
『…なんで、よけないの?』
俺は、もう目の前にいる、絵美ちゃんに問いかけた。
『……分かんない……』
でも、絵美ちゃんは、そう言って、静かに涙を流した。
絵美ちゃんの目から溢れた涙は頬を伝って、そしてシーツの上に落ちていく。
『絵美ちゃんが言ったんだよ?
“好きな人としたい、されたい”って…』
でも、絵美ちゃんの好きな人は、あの人で。
あの人とのキスなら絵美ちゃんは喜んで、そして受け入れるだろう…
でも、俺は違う。
無理矢理、強引、ただ、絵美ちゃんから奪うしか出来なくて。
『……分からないの……』
なんで、そんなこと、言うんだよ…。
なんで、そんなこと、今、言うんだよ…。
『絵美ちゃん、もう、俺を惨めにさせんなよ…』
『……え………?』
頼むよ、もう俺に叶わない夢を見させないでくれよ。
現実に戻るたびに、もう嫌なんだよ…
空想と現実があまりにも違いすぎて…
『出てけよ』
そう、俺の夢はいつも現実にはならない。
俺の空想は所詮、空想のままで終わる。
『…航汰…くん………?』
『絵美ちゃんの好きな奴はあの人だろ?
だったら…あの人に早く告れよ!
そんでキスもセックスもあの人としろよ!
もう…俺は、絵美ちゃんから奪うことしかできないから…』
その言葉を言った時、
絵美ちゃんの頬に、絵美ちゃんが流した涙とは違うものが落ちた。
『……航汰くん……』
絵美ちゃんもそれに気がついて、俺の名を呼ぶ。
もう、俺に幸せな空想を、夢を見させないでくれ。
俺は、そっと、絵美ちゃんから離れる。
絵美ちゃんは、ユックリと体を起こし、俺を見つめる。
だから、その視線が痛いんだよ…
『早く行けよ…
誤解解くためにも告ってこいよ?』