『あ、そうなんだ。
あれ、でも今、二人』
『なんのことすか?』
俺はその人の言葉を封じる。
…だよね、普通に公共の場でしたらバレるよね?
俺はいいけど。
でも、やっぱり絵美ちゃんはダメだよな…
『あ、俺の見間違いかな』
その人は、そう言って何もなかったように笑った。
でも、絵美ちゃんはやっぱり困った顔をしていて。
『あ、佐々木先生、今日は北辰テストのご褒美、ありがとうございました!
アイス、美味しかったです』
俺は困った顔のままの絵美ちゃんに、そう言った。
俺の言葉に絵美ちゃんは顔をあげて、俺に視線を向けた。
『俺、受験生だから、そろそろ勉強しに帰ります。
ごちそうさまでした』
そう言って、おじぎをすると、絵美ちゃんは更に困った顔をしていた。
でも、俺はそのことに気づかないふりをして、席を立ち上がる。
『あ、もし良かったらどうぞ』
俺は後ろで立っている、絵美ちゃんの想い人に、今まで俺が座っていた席を勧めた。
『え、あ、でも君は?』
『俺、受験生なんで勉強しないといけないんで』
俺はできるだけ、その人に微笑んだ。
だって、そうじゃん?
俺が絵美ちゃんを好きで、絵美ちゃんにキスした、それは事実。
でもこの人は俺のことを絵美ちゃんの彼氏だと誤解して、そんで絵美ちゃんは泣いて。
俺は、絵美ちゃんの教え子、そうこの人に説明しないと、絵美ちゃんがその顔をやめてくれないんでしょ?
なら、こうするしか、ないじゃん。
『佐々木先生、アイス、溶けてるよ。
早く食べないと溶けて食べれなくなるよ?』
俺はそう言って、今度は絵美ちゃんに笑いかける。
それも俺が今まで絵美ちゃんに見せてきた中で最上級の笑顔で。
絵美ちゃん、そんな顔しないで?
俺はこの人と違って、絵美ちゃんのそんな顔を見ても何も出来ないから。
だから、早く笑ってよ。
この人との違いを、俺に思い知らせないでくれよ。