『あれ、絵美?』


絵美ちゃんの唇が何かを言おうとした瞬間、俺の背後から絵美ちゃんの名前を呼ぶ声がした。



その声に気付いた絵美ちゃんが顔を上げ、そして俺の告白なんかの時よりもっと目を見開いて、驚いていた。



だから、気付いた。




『絵美、こんなとこで何やってんの?』


その声は俺なんかよりも低くて。

俺なんかよりも男らしい声で。



そして、固まる絵美ちゃんの顔を見て、背後の人物は絵美ちゃんの想い人であることを。






『……あ…あの………えっと……』


絵美ちゃんはそうとう困惑した顔で、その人に何をどんな風に説明したらいいのか困ってる様子だった。




俺はゆっくりと振り向く。



そこには切れ長の目に、短髪のいかにも体育会系といった男が立っていた。





『あ、なんだ、デート?』



その人はあまりにも普通の顔で言うから。

顔色一つ変えないで、さらりとそう言うから。




絵美ちゃんは困った顔から泣きそうな顔に変わっていく。




『絵美、彼氏いたのかよ?
 だったら教えてくれれば良かったのに』


その一言に、絵美ちゃんの目からは涙がこぼれる。







あーぁ…



この人が好きな人か…



そんで、絵美ちゃんはすげー好きなんだ。




だって、こんな顔をして泣くんだもん。


この人のたった一言で、

この涼しい顔に。





『…あ…先輩…あの……』






…説明もろくに出来ないほど、ですか?








『彼氏じゃありません、ただの教え子です』




だから、こんなことを言うしかなくて。




ご褒美だったのに、なんで俺がこんなこと言わなきゃなんないんだろ…