「石膏デッサンは未完成なのに、彼のことは沢山描いてたんじゃない……

凄く上手に描けてたわよ。

私にも描かずにいられなかった錦野さんの気持ちが良く分かる。

物凄くイイ男よね彼」

お褒めの言葉を頂けるとは思ってもいなかった。

「やっぱり好きな人は上手に描けるのかなー彼のことが好きなんでしょ?」

田中先生の言葉にポカーンと間抜けな表情になる。

「えーと好きか嫌いかで言ったら間違いなく好きなんですけど、

田中先生の仰る意味とは好きの意味合いが違うというか……

強いて言えば私にとって”アイドル”のような人なので……

身近な人のようで近付けない感じとかが似ているような、いないような私にも良く分かりません。」

こんな話をする事になるとは思わなかった。

「ふ~ん、そうなの」

どこまでも楽しそうな田中先生……こんな人だったとは意外です。

「友達が待ってるので、これで失礼します」

これ以上詮索されても困ってしまう。

スケッチブックを握りしめ美術室を勢い良く飛び出した私。

「いつでも遊びに来て良いからねーその後の進展でも聞かせて欲しいなぁー」

田中先生の楽しそうな声がシーンと静まりかえった美術室から響いて届いた。