絶対やせて貰います。


今日もどの角度から見ても隙がなく完璧な彼女は直す必要のない髪に触れてみたり、リップの滲みがないか確認する仕草が女の私から見てもとても色っぽい。

「あれで旭君の家が資産家だったら結婚も考えるけど……お父さん普通のサラリーマンらしくてホント残念。大学卒業までの“つなぎ”が精々かな?」

必然と耳に入って来る通話相手との会話。

笑って話しをする彼女の様子には悪意は微塵も感じ取れない。

でも……

『普通のサラリーマンのどこが悪いの?

小岩井父が家族の生活を守るため、上司の嫌がらせにも屈せずにどんな思いで仕事しているのか知らないくせに……』

自分の家族を侮辱されたように思うのは、小岩井家に親しみを持ち過度な感情移入をしているせいなのかも知れない。
それでも湧き上がる怒りはどうしようもなくて……

彼女に近付くために一歩足を進めてみるもふとある思いが心をよぎる。

一体なんの権利があって彼女を責めるつもりなの?

『旭君にあやまってください』とでも言うつもり?

坂口さんへの旭君の返事が『別にそれでもいいよ……』だったとしたら?

私こそ完璧なピエロだ。

だって私は旭君の同級生で唯の友達に過ぎないから……

立ち止まったまま成すすべを持たない私は彼女の話をこれ以上聞いてはいられないと急いでその場を立ち去りかけたら、また昨年の再現のような出来事に遭遇する羽目になった。