「こいちゃん。今日は急に悪かったね……助かったよ」

仕事終わりに和田さんから労いの言葉をかけてもらった。

「私もバイトが入って良かったです……」

小岩井家から直ぐに自宅に帰っていたら悶々とひたすら思い悩んでいた筈で、だからこそ自然と素直な思いを口にしていた。

「お父さんの部下の彼……」

そこまで言って口ごもる和田さんは心配そうな表情で私の顔を窺い見ている。

「はい。店の外で待っているそうです」

堺さんは帰り際に、私のバイト終わりの時間に戻って来ると言い残して同期の方たちと一緒に店を後にしたからだ……

「お先に失礼します」ペコリと頭を下げて店の外に向かう。

「お疲れさま。気を付けて……」

言葉にしない行間に和田さんの優しい気遣いが感じ取れて思わず振り返り

「はい」と元気よく返事をして店を後にした。

閉店を迎えた店の外は明かりも落としているので意外と薄暗い。

でも佇んでいる人影を確認して堺さんに違いないと思い急いで駆け寄ろうとする私を呼ぶ声が聞こえてきたものだから突然体が凍り付いたように動かなくなる。

「こいちゃん……はぁー良かった。間に合った……」ハァハァと荒い息づかいなのはきっと走って来たのだろう。

でも私はその声のする方に顔を向けることが出来ない。

だってそれは……

ここで会う筈のない人の声だったから……

とても恋しくて、でもせつなくて、今は会うのが気まず過ぎる人。