「こいちゃん……知り合い?」

保護者本能からお客様だということも忘れてしまった和田さんが、堺さんを胡散臭いモノでも見るように眺めながら聞いてくる。

知り合いと言われるとちょっと違うとは思う。

先程初めて会ったばかりではあるけど……

堺さんは父の部下で数年前に何度も私の作ったお弁当を食べてくれていた人。

弁当箱を洗って返してくれただけじゃなくて、時々可愛いお菓子をこっそりと弁当箱に入れてくれる優しい人だという事は分かっている。

だからこそ返事に困ってしまう。

「あの……堺さんは父と同じ会社にお勤めで、和田さんのお店も父から紹介されたそうです」

う~んと考えながらどうにか和田さんの質問に返事した私とは違って、飄々とした態度で堺さんは言葉を続ける。

「堺です。

鯉子ちゃんのお父さんには大変お世話になっています。

彼女と俺は……

4年程前までは彼女が部長に作ったお弁当を代わりに食べていた……

そんな間柄です」

(堺さーん……その通りなんだけど……それってどんな間柄なんですか?)

嬉しそうに話す堺さんに心の中でツッコミを入れながら黙って続きを聞く私。

「部長のPCの待ち受けが家族写真だから何度も見ていて彼女に親近感を持ってました。

でもリアルな彼女に会うのは初めてなんですけどね。

それなので、上司のお嬢さんは責任を持ってお送りします。ご心配なく」

和田さんと二人して呆気に取られた表情をしていたにも関わらず、堺さんの中で私を送って行く事は、

最早決定事項のようだった。