『汚れてしまった私を秋緒さんは今までのように愛し続けてくれるかしら……』

そんな思いが頭をよぎり涙で霞む視線の先に見えたのは静かにこちらを見つめている旭の姿だった。

男は旭に背中を向けていて、その存在に気が付かない。

私は涙に濡れる瞳を瞬いて小さく首を振り、旭に向かって『ここに来ないで』と懸命に念を送り続けた。

フッと見えなくなった旭の姿に安堵するものの、

状況を打破する手立てもなくて諦めの心境になったその時……

救世主が現れた。

チャイムの音が鳴り響くのを聞いた男はビクッと体を震わせて私の上から体を起こす。

「マリアさん……居ないのかい?」鈴木のおばあちゃんの声だった。

私と男は黙ったまま息を潜めて見つめ合っていた。

「アレ……お客さんかい?

あんたの好きな筑前煮たくさん作ったからお裾わけ、

……勝手に上がるよ」

大きな声と共にスタスタとこちらに向かって歩いて来るおばあちゃんの足音。

男はおばあちゃんに顔を見られないようにする為なのか?

帽子を深く被り直したと思ったら大慌てで玄関を目指し、

おばあちゃんの横を通り抜け外へと飛び出して行った。

リビングで縛られた上に衣服の乱れた私を見ても私の予想に反しておばあちゃんに驚いた表情は見られない。

どちらかと言えばホッと安堵の表情を浮かべて直ぐに駆け寄り紐を解いてから私の体を小さい体で抱きしめてくれた。

鈴木のおばあちゃんに抱きしめられて初めて声を出して泣く事が出来た私を

「よしよし。怖かったねーでも……もう大丈夫だよ」

温かくて優しい手が何度も背中を擦りながら声を掛け慰めてくれた。