「私と結婚した事で秋緒さんに余計な負担を掛けて

申し訳ない気持ちも当然あるんだけど……

2人の可愛い子供にも恵まれて

私たちは……

少なくとも私は毎日幸せを感じながら過ごしていたの

あの事件が起こるまでは……」



***



それは今から約16年前

旭もまだ小学校に上がる前のこと。

秋緒さんのお祖母様の持家を譲り受けリフォームしてから移り住んだのがその頃だった。

隣近所の人たちと直ぐに親しくなれたし、お隣の鈴木のおばあちゃんには特に親子共々物凄く良くして頂いている。

仕事を探していた時に友人の口利きでイタリア料理店で提供するドルチェ(スイーツ)を任せて貰える事が決まって、自宅で出来る仕事が家計の足しにもなるし子供たちにも手造りのおやつを与えられて一石二鳥の幸運も舞い込んだ。

毎日が目まぐるしい早さで過ぎていくけど、この家に越して来て本当に良かったと私は毎日幸せを実感していた。

それから週に3~4回平日の2時頃にお店からの使いでバイトの子がケーキ類を受け取りに来るようになった。

シャイな感じの無口な20歳前後の男の子は緊張しているのか?

いつも無表情だったけれど私は構わずにいつもの調子で

「暑かったでしょ?冷たいレモネードがあるから飲んで行って」

「これ良かったら車の中で食べて」

お節介にも焼き菓子やサンドイッチを遠慮する彼に無理やり持ち帰らせたりして……

笑顔を絶やさず話し掛けているうちに彼も笑顔を返してくれるようになり、その変化を嬉しく思っていた。



そんなある日事件が起こる。