二人と早く距離を置きたくて、

いつも以上に歩く速度が上がっていたのかも知れない。

気が付けば目の前には小岩井家

そこでまた言いようのない悲しみが押し寄せてきて門を開ける事が出来ない。

この一年の間に何度この家を訪れた事だろう。

酔った勢いで初めての訪問をした日は夜だった……

あの時、最初に目にしたのはマリアさんが欠かさず手入れをしている愛らしく咲き誇る草花たち

ふとあの夜の情景を懐かしく思い出していた。

そして目前には昨年以上にイキイキと生命力に溢れる花たちが訪れる人々の目を楽しませている。

そこへ突然、玄関扉が内側から開かれ家の中からマリアさんが姿を現した。

「こいちゃん……」

笑顔で私の名前を呼ぶマリアさん。

まだ心の準備が出来て居なかった私は直ぐに笑顔で挨拶する事が出来ない。

マリアさんの笑顔が一瞬にして心配そうな表情に変わるのを見て、

自分がどんな表情をしているのか分からなくて不安になる。

「そんなとこに立ってないで家に入りましょう」

ハッとして漸く挨拶の言葉を口にする。

「マリアさん。こんにちは あの…お邪魔します」

門を開けて私を招き入れてくれるから素直に従い一緒に家の中へ入って行った。