「あっ!パウンドケーキ……」

「パウンドケーキ?」

「こいちゃんが動画の人なら、お兄ちゃんにお礼のケーキ焼いてくれたのもこいちゃんでしょ?」

「……うん」

あの時のお礼に焼いたパウンドケーキ。

『3年以上前の事なのに覚えていてくれたの?』

嬉しくてジーンと感激に浸っていたら……

いきなり私の手を掴み部屋を飛び出して行くひかるちゃんに引きずられるようにして旭君とマリアさんの待つリビングに連れて行かれる。

「お母さん、お母さん、お母さん……」

「どうしたのひかる?騒々しい子ね」

「あのパウンドケーキ焼いたのこいちゃんだった」

「えっ、錦野さんが?」

「ひかる、何を一人で騒いでるんだ?こいちゃんが驚いてるだろ」

旭君の言う通りさっぱり意味が分からず戸惑っていますが、何やら私にも関係があるみたい。

「お兄ちゃん、どうして直ぐに教えてくれなかったの?

あのパウンドケーキをくれたのがこいちゃんだってこと」

重大な失態を旭君が犯したかのようにひかるちゃんが問い詰める。

「あっ……でも今ケーキは関係ないだろ?

しかもひかる”こいちゃん”って呼んだよな?

はぁー俺がどんだけ心配したか……おまえ態度が激変し過ぎ……」

安堵と呆れの入り混じったようなため息を付いた旭君の様子など全く意に介さないひかるちゃんは旭君に向かってこう言った。

「こいちゃんとは誤解を解いて仲良くなったの、今は”こいちゃん””ひかるちゃん”って呼び合う仲よ。

元はと言えば”女の趣味が悪い”お兄ちゃんがいけないんだからね……フン」

兄らしく注意したつもりが逆にやり込められる旭君がちょっぴり不憫です。