俺はスパイだ。俺が所属する団体に敵対する者がいれば、すぐに敵側の団体に潜り込む。今まで失敗したことは、ない。俺の眼球と内耳には特殊な外科手術が施されていて、俺が見たもの、聞いたことは全て俺のボスに伝わり記録される。つまり、仮に俺が失敗しても、敵の情報を持ち帰りそびれることは無いのだ。
だから俺は安心していた。そう、今まさに俺は敵に捕まり、拷問を受けようとしている。だが捕まるまでに俺が得た情報は確実にボスに伝わり、役に立つはずだ。あとは俺が拷問によってこちらの情報を漏らしさえしなければ、俺の勝ちなのだ。
白衣に身を包んだ数人の男が俺に近づいて来た。これから数々の尋問が行われるのだろう。白衣の男たちの後ろから、敵の幹部が俺に声をかけた。「君はこれから数々の拷問を受けることになる。だが君がそちらの持つ情報と技術を渡してくれるのなら、我々にもそれなりの用意がある。」いかにもサディスティックな笑みを浮かべながら交渉してくる幹部を俺は無視し、無言のまま睨みつけた。「ま、君ほどの優秀なスパイだ。簡単には口をわらんだろうな。」と言って幹部の男は白衣の男達に目で合図をする。「死なない程度なら何をしても構わん。吐かせろ。」
こちらが極秘に研究を進めているプロジェクト、それは動物の改造だ。鳥や魚、虫に至るまで、人間であれば到底不可能な場所からの攻撃や進軍が、彼らならば可能なのだ。すでに、今俺を捕らえているこの団体が持つ必要な情報は得た。だからこの基地を壊滅する為の配備は完了しているはずだ。その攻撃で俺は、この基地ごと葬られることになるだろう…それまで黙っていればいいのだ。
「さすがに、しぶといな。あれを使うしか無いな…」俺はどんな拷問にでも耐えられる自信があった。しかし奴らには秘策があるようだ。白衣の男の1人が手に注射器を持っている。「この薬品はまだ我々も研究中なのだが、効果は絶大だ。」と言いながら俺の首筋に針を刺した。「注射されれば確実に知っている知識をしゃべる自白剤だ。ただ、あまりに効果が強すぎて3分で死んでしまうのが難点だな。残り3分の命で、せいぜい役に立つ情報を渡したまえよ。」俺は今までに経験したことのない恍惚感に包まれた。これは、ヤバい。我慢する間もなく俺はしゃべりだした…

「わん、わんわん…」俺に言葉を話す機能が無くて本当に良かった。