体を洗ってても歯を磨いていても顔を洗ってても
なにも綺麗にならない気がした。




自分の部屋に戻ってベッドに潜りこむ。

今日に限って月が明るい。




部屋にさしこんでくる光をうっとおしくて窓に背を向けてうずくまる。


枕から太陽の香りがする。
その匂いから意識が遠のいていく












耳元でなにか音がする
いつのまにか寝ていたみたい





ふと、誰かがいる気がした。
髪の毛になにかあっている



「ん…」
すこし焦点があわないまま窓の方を向く。



「ごめん、起こしちゃった?」


ティボルトだ。



「ううん、別に大丈夫」


「体調悪いって、母さんから聞いたんだけど…大丈夫?」



わたしを気にかけてくれたのがすごい嬉しかった。
でも今は会いたくない…複雑な気分。



それでもティボルトの優しさが弱った心に染み込んでくる。



「大丈夫。ありがとう。
ティボルトこそ疲れてるでしょ?
はやく寝たほうがいいわ。」





月の光に照らされているティボルトの横顔しか見えない
でもなんとなく元気がないように見える



「ううん、大丈夫。もう少しここにいたいんだ。」



すこし沈黙が流れる



「…最近忙しそうね
なんのためにお金ためてるの?」


すこし直球すぎたかも
でも寝起きの頭で頭つかった言い回しなんてできない



「母さんから聞いたんだね…
やっぱり照れるな」


目をくしゃっとさせるティボルトの笑顔が心臓につきささる



「うん。」



また沈黙がながれる


静かな中でティボルトの咳き込んだ声だけが響いた



「…えっと。改めて言うけど、舞踏会一緒にいかない?
マイクなんかやめてさ、俺にしなよ。」






そういって、ピンヒールを渡された。





「…えっ」




ただ頭が混乱してる
ただの夢…?





ううん、このピンヒールの冷たさが本物だって教えてくれてる。


暗闇でも光るこの靴に涙がおちた。




「…わたしでいいの?」



混乱気味にきく私に元気を取り戻したティボルトが笑いかけてくれた。



「君がいいんだ。
僕と一緒に行ってくれる?」




「うん、行く…」

気分が和らいできた。


「…ありがとう。
じゃあ、今日はもう遅いから寝な。
おやすみ、ジュリエット」


そう言ってティボルトの唇が髪の毛に触れる

「おやすみ、いい夢を。」



「おやすみ…」