「なぜお姫さまがここに?」



冷静を装いつつ、内心はめちゃくちゃ焦っていた。


どうやら、ここ数週間、この争いの多いウェズリアに来たせいで、あたしでもポーカーフェイスが可能になってきたようだった。


慣れとは恐ろしい。


 というか、どうやってウェズリアにしかも城に潜り込んだのよ!


オスガリアとウェズリアを繋ぐ門のところはもちろん、お城の入り口にだって門番はいたはず!


 そう叫びそうになって、慌てて口を両手で塞いだ。


 
「ちょっとウェズリアに知り合いがいただけです」



 姫は余裕そうに笑う。


 ローズ姫はカカオの今のところ婚約者で……結婚相手になるかもしれない……んだよね。


 ウェズリアとオスガリアの友好関係の証のために。


 けれど、カカオの話からすると、姫もカカオにベタボレみたいだけど。


なんだかこの人に負けたくない気がしてきた。


ぐいっと胸を反らせ、



「何故、何をしにこんなところへやって来たんですか。 カカオはまだ帰ってきていませんけれど」



ぶっきらぼうに言い放つ。


けれど姫はそんなことを気にも留めないようで。



「あなたに用があったのです。 まお様」



 あたしはひそかに手に魔方陣を呼び寄せた。


 
「あたしに?」

「ええ」



 姫は、あたしに歩み寄った。


 
「どうしてカカオ様がオスガリアにやってくるのかわかりますか?」

「ええ、まぁ」



 断ると、平和協定結べなくなっちゃうとか言ってたはず。


そうすると、再びオスガリアの侵略は始まる。


侵略が始まれば、もう再び平和協定を結ぶことは不可能になる。


そして、ウェズリアは今まで防戦一方だったけれど、祖国を守るため、攻撃に出なければならなくなってしまう……。


 姫は妖艶に笑った。



「カカオ様がオスガリアに来てくださる理由は簡単ですわ。 わたくしに会いたいから来てくださるのです」



 ズコ。


 あたしはひとりでずっこけた。