「も、ものふ……?」


「モノフルオロ酢酸ナトリウム。殺鼠剤だ」


「殺鼠剤!? そんなの服薬して大丈夫なんですか!」


「全然大丈夫じゃない。だからそれほど自信がある話だってことだ。よいこはくれぐれも実行に移さないように」


「は、はぁ……」



 例が危険すぎてヒヤッとしました。



「話もプリントも以上。あとはそれを各班ごとに配って、実験の準備をしておけと伝えてくれ」


「わかりました。でも先生、ひとついいですか?」


「なんだ」


「私、化学の教科係じゃないんですけど、どうして呼ばれたんでしょうか?」


「それはお前……アレだ」



 土屋先生が、実に真面目な顔で呟く。



「気分」


「……左様でございますか」



 さすが「俺が聡士を育てたと言っても、過言ではないんだゼ」と自負してくるだけのことはある。

 一筋縄ではいかない。


 そんな相手に勝てるわけもなく、職員室を後にしようとしたときのことである。