「では、お母様は?」


「……つい先日、亡くなられたと聞いています」



 やっとの思いで口にする……と。



「……何ですって。亡くな、られた? 彩子(あやこ)さんが…………?」



 はらり、と雫が零れ落ちた。

 それは間違いなく、八神さんの頬を伝う涙。



「……何ということだ」



 顔を覆う八神さん。

 深い悲しみを表すように、声を押し殺して静かに泣いた。



「あの……?」


「……実は私、郁人くんが幼い頃から主治医をさせてもらっていたのです。彼の家庭の事情は存じております」


「そうなんですか!」


「ええ。中学校に入ってからは調子がいいからと、それっきりだったのですが、そうですか、お母様が亡くなられましたか。

 ……突然申し訳ありません。涙もろいもので」



 八神さんは気丈に笑いながら、目元の涙を拭う。