『八神医院』と称された診療所は、ちいさいながらもしっかりとした設備の場所だった。


 診察を終え、郁人くんをベッドに寝かせた後、八神さんが私たちに向き直る。



「単純な風邪です。ただ2、3日は様子見で入院したほうがいいでしょう」


「そうですか……ありがとうございます」



 頭を下げると、八神さんは「いいんですよ」と穏やかに笑った。



「彼のことは心配ありません。ご家族には私から連絡をしておきますから」


「あ……」


「どうなさいました?」


「……その、郁人くんにはご家族がいなくて」


「……ご家族が、いない?」


「お父様とお兄様がいるんですけど、少し事情があって……」



 そう言うと察してくれたのか、八神さんは真剣な面持ちでこう返してきた。