ひたすらに階段を下っていく。

上層階に向かうと言い出したのはセシルであったが、先程から一度も昇りの階段には出くわしていなかった。

この九龍都市の構造に詳しいセシルならば、道を間違っているという事はないと思うが、ヨセフを謀ろうとしている可能性もある。

一時も油断する事なく、ヨセフはセシルの華奢な背中を睨み続ける。

ヨセフよりも小柄で、まだ10代と言っても通用しそうな外見だが、この女もまごう事なき化け物だ。

あの黒十字 邪悪の眷属であり、吸血鬼の最上位・真祖としての能力を持つという。

九龍都市の暗がりを、おっかなびっくり歩いている臆病者のようだが、その本質は紛れもない闇の住人なのだ。