それに頷き、一歩踏み出そうとすれば、中指にシルバーリングをはめた右手が伸びてきた。
「よっこ」
吸い込まれるように捕らわれる。
そのままくしゃりと乱された二つ結び。
触れられたところから一気に熱が伝染して、身体の神経が麻痺する。
これだから、ずるい。
甘ったるいキャラメルみたいなこの空気にほだされる。
からかわれているだけだと理解しているはずなのに、どきどきして心臓がうるさい。
「ぐしゃぐしゃ」
乱した張本人はそう言って笑う。
心の奥が、ぎゅっと熱くなる。
熱を持った頬を隠すように、満足げに笑う桐谷から視線を逸らしたときだった。
俗世間から隔離されたようなこの空間にそぐわない、電子音がした。


