下駄箱でローファーに履き替える。
トントン、と右足のつま先と地面で音を立てて、少し橙色の空の下へ出た。
ノックをしている野球部の隣を通る。
一際大きな声が聞こえたな、と思って運動場をちらりと見れば、それはグローブをした堤くんだった。
「わー……」
白い野球帽をかぶった堤くんは、しっかりとボールをキャッチしてどこかに投げる。
いまいち野球には詳しくないけれど、堤くんの投げたボールは真っ直ぐ相手に届いていて、きっと上手なんだろうなと思った。
「頑張ってるんだ……」
ぼそりと呟いて、校門をくぐる。
すぐそばの道路を、チリンチリン、と自転車が通って行った。
駅まで勉強しようと、鞄から暗記カードを取り出す。
見ながら歩くのは危ないと分かっているけれど、わたしも一応受験生なわけで。
「“clue”手がかり、“luxury”贅沢、“boundary”境界、……」
ぶつぶつと呟きながらカードをめくる。
それにしても、桐谷単位足りてないんだな。
まあ、あれだけサボってたらそうなるのが普通だと思うけれど。
「どうするんだろ……」
期末で赤点取らなかったらいいみたいだけど、それってどうなのかな。
二年のときの点数も悲惨だったし、無理があるような気もする。
「……ノート作ってあげるとか?」
テスト範囲の重点だけまとめて、渡してみようかな。
でもそれってどうなの。
ただのお節介なおばさんじゃない?
いや、でも自分の勉強にもなるし、やってみようかな。
……なんて、言い訳がましい。
やっぱりわたしの世界は桐谷中心だ、と苦笑しながら、暗記カードをめくる。


