ナミさんにとって、それは今、どうでもいい物なのかもしれない。
でも、確かにナミさんにも、彼の世界にいたかった時期があるってことで。
きっと。
教室の中央にいる女の子のグループも。
彼が教室にいないか覗きに来る他のクラスの女の子たちも。
少なくとも彼の世界にいたい願望を持っているわけで。
彼女たちの世界の主役は、桐谷なのだろう。
「ねー、これ見てー、蓮の寝顔」
「え、写メったの」
「送って送って!」
「ラインに送っとくー」
「ありがとーっ!」
空は、青い。
わたしの世界の中心に君臨する彼は、今、何をしているんだろうか。
気付けば、いつも彼のことばかり考えている自分がいる。
その事実に、どうしようもなく嬉しくて、それでいてどうしようもなく虚しくなった。
「次はどんなんにしよっかなー」
「……」
「柑橘系ってキツイ? あ、でもナミって柑橘系の顔してないってよく言われるんだよねー」
「……」
「あんま自覚はないんだけどさー、やっぱ全身からお嬢オーラ出てんのかなー」
「……へえ」
どちらかと言えば真逆のオーラじゃないかな、と思っていると予鈴が鳴った。
雑誌を閉じて差し出せば、ナミさんはそれを受け取りながら、
「美しいって、まじ罪だわー」
高らかに笑い、教室から出て行く。
それは良かったね、とその後ろ姿に苦笑を返した。


