それは、どういうこと?
今聞いても、寝息しか返ってこないことは重々承知だ。
現に桐谷は、その綺麗な寝顔をわたしに披露しているし。
初夏の暖かい日差しが降り注ぐ中、一人で考える。
何気ない言葉ひとつでこんなに思考を巡らすなんて、自分でも滑稽だと思う。
でも、あれは、わたしを引き留める言葉で、つまり。
ほのかな光が宿ったとき、ふと、ナミさんの声が脳裏にちらついた。
“本気になっても、虚しいだけ”
……分かっている。
こんな期待、無駄だって。
分かっているはずだったのに、浮かれてしまった自分の愚かさに笑ってしまう。
多くを望みすぎると、失ったときの虚無感が大きい。
「そうだよねー……」
所詮、わたしはその他大勢。
その立場を忘れると痛い目を見る。
桐谷は結局、誰でもいいんだ。
寂しさを紛らわしてくれる女の子なら、誰でも。
いつの間にか落ち着いていた思考に、自嘲するような乾いた笑みしか出なかったから。
ただただ、左の手首に感じる温かさに縋った。


