そよそよ、穏やかに吹く風は、少し夏の気配を含んでいる。
今日も晴天、ひなたぼっこに持ってこいだ。
「あ、そうだ」
「ん?」
「桐谷、これいる?」
ごそごそとスカートのポケットを探り、直方体を取り出す。
昨日豚まんから貰って、そのまま入れっぱなしだったキャラメル。
手のひらの上に置いて差し出せば、
「いる」
呟くようにそう言い、親指と人差し指で摘まむ。
微かに手のひらにその指が触れただけで動悸がしてしまうわたしはもう末期だなあとどこか他人事のように思った。
深呼吸をして、微かな温もりを閉じ込めるようにその手を握りしめた。
桐谷は白っぽい包みを外して口元に運ぶ。
桜色に消えていくキャラメルを見つめていると、不意にこっちに向いた切れ長の瞳。
「なに?」
そう小首を傾げてみせる余裕たっぷりな顔がちょっと憎い。
睨むように見つめると、ますます笑みを深くする。
「……何でもないよ」
「そう?」
ああ、これだからタチが悪い。
目を逸らすと、くすくすと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。