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「名前は?」



綺麗だ。

初めての屋上の感想は、それ。

少なくともわたしは、こんなに空が広いなんて思っていなかった。


「松村陽子」

「ふーん」


気怠げにそう言い、桐谷はあぐらをかきながら伸びをする。

その左手の人差し指には、鍵があった。


緩やかに吹く風が、春の匂いを含んでいて。

桜の花びらがその風に乗って舞い上がった。



「……その鍵、どうしたの?」


後ろ姿に向けてそう声をかければ、桐谷は自分の右隣りを叩いた。


座れ、ってことだろうか。

ぼんやり思いながら、少しだけ距離を置いて体育座りをすれば、満足そうに笑った。



「これは合鍵」

「勝手に作ったの?」


問えば、無言で頷く。

そう、と小さく言葉を返すけれど、とくに話題もなく。