近付いたのは、ただの興味本位だった。



噂話を聞いたり、話しかけに行ったり、髪を染めたり、甘い匂いの香水を買ったり。

桐谷蓮の周りはいつも賑やかで、面白そうだったから。



「最近毎日、学級委員が俺のこと探しに来るんだ」



だから、その中心に君臨していた蓮がそう言って笑ったのが、気になったんだ。





「……」

「……あの、何か」


黒髪のセミロングを二つに結んだ学級委員は、思っていたより地味だった。

あの蓮が楽しそうに言うから、てっきりもっとぶっ飛んでる感じのやつかと思っていた。


「ないわ」

「え?」

「昼休みにまで教科書広げてるとかないわ」


大きく溜め息を吐けば、困惑したように揺れる黒い瞳。

もぐもぐと口を動かしながら教科書を眺めるその姿は、真面目そのもの。


「完全に期待外れだわ」

「いや、えっと、それはどういう……」

「あ? なにこっち見てんの」


そう言って睨むと口を噤む。

その辺のぼさっとしたクラスメイトと何ら変わらない、むしろこの学校ではだいぶ地味なほうであるこいつが、本当に蓮を笑顔にした人物で合っているのか。