そっと右手を伸ばして、その頬に添える。


――これはちょっと、想像できなかったな。




「どうして桐谷は、泣きそうなの?」



そう言うと、ゆらり、桐谷の瞳が揺れる。

泣きそうな顔をして、わたしを見下ろす桐谷はやっぱり綺麗だった。

きゅっと眉間に寄った皺を人差し指でなぞると、心なしか空気が軽くなった。



「……だって」


しばらくじっと黙っていた桐谷は、そう口火を切る。


「だって?」

「……俺のだし」

「え?」



戸惑っているうちに、プチッと小さな音を立てて外れた赤のリボン。

丁寧に上から外されていくカッターシャツのボタン。

露わになるキャミソール。





「よっこは、俺のでしょ」



ちくりという痛みを伴って、胸元に降ってきた桜色。

硬直している私を見て、桐谷は満足気に笑った。




  ―fin―

「え、え、えっと、あの」
「しー、静かに」
「弱ってたんじゃなかったの……」
「拗ねてただけー」


(胸へのキスは所有のしるし)
(手離すつもりはないからね)