えっと、今、堤くんの唇がおでこに、その。
「よっこ」
「う、わあ」
ぐっと強く引っ張られた腕。
ぽかんとしていたわたしを一気に現実へと連れ戻した。
そのまま桐谷は力を弱めることなく、ぐいぐいとわたしの腕を引っ張っていく。
「え、ちょ、桐谷」
教室のドアを通るとき、ちらりと見えた堤くんは、ひらひらと手を振っていた。何ということであろうか。
休み時間はもうすぐ終わろうとしていて、廊下に出ている生徒は少ない。
隣のクラスの前を通ったとき、ナミさんがわたしたちを見て思いっきり顔をしかめていたような気がするのはきっと気のせいだろう。
「きりたにっ、腕痛いよ」
そう訴えても腕を掴む力は変わらず、歩くスピードはどんどん速くなっていく。小走りで付いていくけれど、息切れし始めた。二人分の足音が階段を上っていく。
キーンコーンとチャイムが鳴った。そういえば今から三限目だったなと頭の端で思い出す。
「ねえ、きりたに……」
ぴたりと立ち止まったグリーンのカーディガン。
どうしたのだろうかと前を見れば、青いドア。
ギイ、シルバーリングを中指にはめた右手がドアを開ける。
バタン、ドアが閉まったとき、わたしは桐谷に押し倒されていた。