「す、きだよ」


口を開くと、ぼろりと言葉が滑り落ちた。

耳元でひゅっと息を吸う音が聞こえる。



「好きだよ、桐谷」


もう一度ゆっくりと口にした。

紡ぐだけでいっぱいいっぱいで、小さな声だったけれど。



「うん、俺も好き」



わたし以上に小さな声で囁かれた言葉。

それを聞いただけで、心臓が破裂するんじゃないかって思った。



「……きりたに」

「うん」

「桐谷、わたしね」

「……うん、なに?」


不思議そうなテノール。

耳にかかって、やっぱりくすぐったい。



「その他大勢でいいから、桐谷の世界にいたかったんだ」



そっと移した視線。

水溜まりから波紋は消えていた。


「わたしは、桐谷の世界に入れてる?」


ぐしゃぐしゃの顔でそう聞けば、面白いこと言うね、と桐谷は笑う。

そして、くすっと、楽しげな吐息と一緒に。




「とっくに、よっこは俺の世界の主役だったよ」




そう、言った。