わたしは、何をこんなに動揺しているのだろう。
彼の世界には、たくさんの女の子がいると分かっているのに。
それを承知の上で好きなのに。
あんな甘ったるい視線を注ぐなんて、知らなかったから。
「……なにその幸薄い顔」
バニラの匂いがした。
顔を上げると、チョコデニッシュをかじりながら、いかにも不愉快そうに眉をひそめたナミさんがいた。
「……ナミさん」
「ずっと教科書見てるとか、まじこわー。ないわー」
どうして、ここにいるのだろう。
そう思って時計に目をやれば、もう昼休みだった。
さっきまで気付いていなかったけれど、教室は騒がしい。
「さっさと教科書しまってくんない? もう授業とっくに終わってるし」
「え、あ、……わっ」
急かされて、ずっと開いていたらしい教科書を閉じた。
引き出しにしまえば、ナミさんは当たり前のように雑誌を広げる。
机の角にはまたひとつ、点数シールが増えていた。
「……で?」
「え?」
いきなり口を開いたナミさんに首を傾げる。
するとナミさんは、物騒なほどに顔を歪めた。


