濃紺に染まる赤を追え。







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「あ、松村おかえりー……って、え?」


教室に戻ると、堤くんがノートを持っていた。

わたしを見るなり、驚いたように目を見開く。

そんなにわたしは酷い顔をしているのか、と頭の片隅で思いながら、席に着いた。


「……どうした?」


ノートを差し出しながら、心配そうに首を傾げる堤くん。

その表情に申し訳なさが募り、ただ首を振る。


「ちょっと今日は暑かったから」


自分では微笑んだつもりだったけれど、堤くんはさらに心配そうに眉を寄せた。

それを見る限り、上手く笑えていなかったのだと思う。

でも、どうしようもなかったのだ。


「……、そうだね」


何かを悟ったのか、堤くんはそう呟くように言い、深く聞いてくることはなかった。

それが堤くんの優しさだと分かっているから、甘えてはいけないと思ったけれど、結局わたしは何も言えなかった。

ノートだけ受け取り、次の授業の準備をする。


そうしていると、タイミングを計らっていたかのようにチャイムが鳴り、先生が教室に入ってきて。

救われた、と内心安堵しながら先生の話に耳を傾けた。