ドッペル・ゲンガー

「こんな時間に練習か?」

 皮肉とも、そのままの意味とも取れるように言葉を投げた。

 月明かりをバックに背を向けている男は黙ったままだ。

 広い肩幅にショートカット。

 男だと判断するには充分の容姿だ。

「聞こえてるだろ? こんな時間に何してんだ?」

 再度言葉を投げる。

 それでも男は体の向きすら変えずに黙ったままだった。

「おい、さっきから何……」

「ジレンマだな」

「はあ……?」

 俺の言葉を制するように口を開いた男は深い溜息をついた。

「やめたい、でもやめれない。そんな事で悩んでいる内に、本当の自分が目指すものを見失ってしまった」

「言ってる意味が分からない。ふざけてるのか?」

 イラついた声を男に投げる。

 意図は分からない。

 だが、意味は分かっている。

 ……それは俺自身の事だ。