オレは、泉川さんの手を引いたまま、あちこちちょろちょろと走り回った挙句。


 ドカドカと音を立てて昇降口に飛び込むと、泉川さんに『靴!』と、今出る声でささやいた。


 そして、説明不足の分は、手本代わりに自分でも外靴を脱ぎ散らかすと、やっぱりここでも少し走り、適当な部屋に飛び込んだんだ。


 ……その、間一髪後!


 俺達との距離を詰めるために土足で追いかけて来たらしい。


 ハサミを振りかざしたクラスメートは、ほぼ同時に同じ部屋に飛び込んできやがったんだ。


 ヤツらは『うら~~!』とか、ワケ判んねぇ声をあげて、オレの胸倉をつかみ、改めてハサミをつきつけた。


「この! ちょこまかと逃げやがって!
 もう逃がさねえから、そう思え!」


 リーダーがそうわめき散らした時だった。


 元から、その部屋にいたオトナの一人が、静かに、声を出した。


「二階堂君! 君は一体何をやってるのかね?
 井上君を放したまえ」


「……へ?」


 二階堂って呼ばれた、クラスの不良君は、その言葉に慌てて辺りを見回して、呆然とつぶやいた。