「泉川さん~~ まだ、黒板消し終わって無いの?
 なんだ~~ 最初はイヤそうだったけど、実は、嬉しかったんじゃない?
 井上君との相合傘の落書き~~」


「ち……違……」


「そうだよね~~
 クラスの皆にはやしたてられても、井上君怒らなかったし~~
 今だって泉川さん、鼻歌を歌いながら消してたじゃない?
 案外、二人はラブラブ?」


「違う。わたしは、クラス委員だから井上君のお手伝いをしてただけ。
 それに、彼も、本当は怒ってたと思うよ。
 ただ、声が出ないから黙ってただけで……」


「彼! ととうとう泉川さん、井上君のこと、彼だって~~ あははは~~」


「違……」


 わたしが小さくあげた声なんて、あっという間にかき消えて、女の子たちは莫迦にしたように笑った。


 井上君は、この春。二年になる時にこの、さつき台高校に転入してきた男子だ。


 十二月に事故に巻き込まれて以来、声が出なくなっちゃって。


 ここの高校の近くにある専門の病院に通う期間だけ、一時的に転校してきたんだって。


 なんでも、珍しいケースみたいで、喉の治療期間が未定だってことだけど、本人は、元の学校に早々に帰るつもりみたい。


 クラスメイトに自分の考えを伝えるには、メモに何か書く『筆談』しかないみたいなんだけども。


 事故前も、元々無口だったらしい。