目の前には聞き耳をたててたであろう、阿部の姿が。

「あっ……」

葵の話、聞かれてなかっただろうか。

詩音の胸の中は穏やかではない。

「聞き耳をたてるなんて、趣味悪すぎですよ。阿部さん」

呆れた顔で阿部をみつめる叶亜。

阿部はガリガリと髪をかきながら、

「何の話してるか気になってよー。で?どうするんだ?これから」

「刑事のくせにそんなのも分からないんですか?ほんとにアホの末裔ですね。祖先はアホの神で決定だ」

叶亜はそう言うと、車椅子でさっさと部屋を出ていってしまう。

言い返せなかった阿部が「くそっ」と足を踏み鳴らした。