日曜日の夕方5時前。待ち合わせの駅に着いた。改札を出て右側、約束の場所を見る。

(あっ…)

珍しい。スーツ着てる。

「お待たせしました」

急いで駆け寄る。王子様みたいな顔した彼が、振り向いて微笑んだ。

「ちっとも…待ってなんかないよ」

出掛けに言われた母の言葉を思い出し、少し顔が赤くなる。



『ーーーデートなの?』

珍しくワンピース着てるからそう思われた。

『オペラ観に行くの。カジュアルじゃ変でしょ?』

ハッキリ返事しないで目的だけ答えた。

『オペラか…素敵ねぇ…』

羨ましそうな母が呟いた言葉。おかげで変に意識させられた。

『…帰らない時は連絡はしてよ。心配だから』
『な…何言ってんの!帰るに決まってるじゃん!』

焦って否定したけど、そんな事考えてもいなかった…。


「…どう?体調?」

ドキッ、顔覗き込まれた。

「へ…平気です。今日は昨日と違って花粉が少ないみたいで…」

マスクを持ち上げる。昨夜降った雨のおかげで、今日は朝からクシャミが出ない。

「そう。良かった…じゃあ行こう」
「…はい!」

一緒に歩き出す。ユリアさんみたいに腕を組んではみたいけど…。

(なんか緊張するな…)

こんなマトモな格好で会うの初めてだし、時間も時間だし…。

「あっ…」

ドスン!…と人にぶつかった。下ばかり向いて歩いてるからだ。

「大丈夫⁉︎ もっとこっち寄って」

さっ…と肩引き寄せられる。
ドキン!

(ヤバイこれ…腕組むより近い…)

ドキドキする。なのに坂本さん平気そう…。

(慣れてる感じ…もしかして…ドイツ女性とこんなふうに歩いてた…?)

ついそんな事を考えてしまう。何も知らないって罪つくりだ…。

「…小沢さんは、今日のオペラがどんな話か知ってる?」

肩抱かれたまま聞かれた。

「…ネットで少し調べました。話が分からないと面白くないと思って…」
「そう。じゃあ教えなくても平気?」
「いえ、教えて下さい。よく分からない所もあるし」

公会堂へ行く道すがら、かいつまんでストーリーを教わる。ドイツで何度かユリアさんの舞台を観てるみたいで、見せ場もきちんと教えてくれた。