──ナシェリオはおぼろに見えるたいまつの灯火をしばらく眺め、ゆっくりと馬を進ませる。 どうせ、あの村も数百年もすれば消えてゆくのだろう。 何かのきっかけで大きな変貌を遂げる可能性は無いに等しい。 多くのものは繁栄と衰退を繰り返している。 だからといって、いまそこにある人々は過去の存在ではない。 彼らは今を生き、前に向かって進んでいる。 自身の記憶にあるものとは異なる存在だ。 過去は今じゃない、現実と重ねてはならない。 心では解っているのに、苦い記憶がナシェリオを足止めさせる。