ナシェリオが外の世界に憧れる本当の理由はそこにあった。

 様々な生き物や風景だけでなく、その土地の人々が築いてきたものにも強く惹かれていた。

 細かな木彫り細工、鮮やかな色の焼き物、鋭く輝く刃物に艶やかな織物──それを思うだけでナシェリオは心が躍った。

 されど、それらは安住の地からその身を引き離すほどの力にはなっていない。

 昨年には見えた商人も次の年にはいなくなっている事は珍しくなかった。

 さすれども、少年のように顔をほころばせて渡り戦士の話を熱心に聞き入るラーファンを見れば、少なからず心は揺さぶられる。

 彼が本当に旅をしたいと望むなら、従うべきなのかもしれない。

「さあ、もう今日は遅い。続きは明日にしよう」

 話し疲れたネルオルセユルは残念がる人々をなだめるように発して宿に向かった。

 村にある宿は常に営まれているものではなく、客人が訪れた時のみ開かれるものだ。