「わたしはこの幾月かあなたを見てきました」

「悪趣味だな」

「そうやって冷たく接するのは、少しでも己が幸福を感じることに怯えているためでしょう?」

 つむがれたものにナシェリオはびくりと体を強ばらせた。

「あなたの内にふつふつと湧き上がるのは、己に対する怒りと自責の念」

 わたしはあなたを古きより知っている。

 その言葉で彼女が人より多くの歳を経ている事が解る。

 ナシェリオが英雄と呼ばれ始めた頃ならば、事実を知り得る事が出来たからだ。

 彼女がナシェリオについて知ったきっかけは偶然かもしれない。

 しかし、興味が湧きさえすればその経緯を辿る事は可能だっただろう。